1974年 「ロックン・ロール・アニマル」発表時
・ まず初めに、前作「ベルリン」をプロデュースしたボブ・エズリンがレコーディング終了後、神経衰弱になってしまったというのは本当ですか?
「ボビーは今すっかり元気になっているよ。彼は仕事の時は長時間ぶっ通しでやるんだ。彼はあのアルバムを三週間で仕上げる予定で、そのために一日十四時間働いた。 そういう場合は、スタジオから出てきた時は神経がクタクタにまいっていて、やっと眠りにつけそうになった頃にはもう次にスタジオに入る時間になってしまう。そんな訳だから、あのアルバムはボビーに当然の結果をもたらしたと言えるだろう。」
・ ある雑誌で「ベルリン」が70年代の「サージャント・ペパーズ」(ビートルズ)と評されたことをどう思いますか。
「屈辱的だ」
・ ベルリンとニューヨークの違いは?
「二つは全く同じだ。ただ、ベルリンが面白そうに見えただけ。 もし『オハマ』というレコードを作ったとしたら、みんなは“オハマだって、そんな田舎町のレコードは聞きたくない”と言うだろう。 しかし、レコードを出して、世間の人々はベルリンについてのレコードも聞きたくないってことが分かった。」
・ でもあなた自身はあのレコードが好きなんでしょう?
「好き、と言うのは正しい表現じゃない。今僕はできるだけあのレコードから遠ざかるようにしている。あれに関しては僕らはやりたいことをやっただけだ。レコーディングのずっと前から、僕には非常に明確なアイディアがあったが、そのアイディア通りに完成させることは本当に苦痛だった。」
・ VU時代の曲に物語の朗読と音楽の組み合わせがありましたね。ああいったものは技術的に難しかったですか?
「ジョン・ケイルが僕の物語の朗読をやりたがったんだけど、僕はそれだけじゃ聴く人が退屈するだろうと思った。 そこで、言葉と音を組み合わせて、その両方、又はどちらか一方を聴くか聴き手が選べるようにしようと考えた。具体的には、片方のチャンネルに朗読を入れ、もう一方のチャンネルには音楽を入れて左右のスピーカーのバランスを聴き手が調整することによって、言葉と音楽を分離できるようにした。これを発展させれば二つのストーリーをそれぞれ左右に一つずつ入れ、真ん中に音楽を定位させることもできる。笑い話と悲しい物語を合わせると面白いと思う。」
・ VUにいた頃、沢山の詩や小説を書いていたそうですか、それを雑誌社に送ったのですか?
「ああ。」
・ 不採用になったものはありますか?
「"ニューヨーカー" には採用されなかった。 そのころ僕は "ニューヨーカー" に寄稿する詩人になりたかった。 僕はいつもそこの秘書か誰かから『大変残念に思います。あなたの作品には才能が感じられ、今後も期待できますが。私共には1980年まで充分に間に合うぐらいの詩がすでにあるのです。』というような手紙をもらっていた。それで僕は "Writers Market" を見ては詩を掲載してくれそうな雑誌を探した。 たとえば "ケニヤン・レビュー" とか "ハドソン・レビュー" とか "パリス・レビュー" とか、 しかしそのうちに、どちらにしろこんな雑誌に誰が載せて欲しいもんか、と思うようになった。 でも、"ハーバード・ アドヴィケイト" には掲載された。」
・ それらの詩のいくつかが歌になりましたか?
「ああ。 そして歌のいくつかが詩として雑誌に掲載された。」
・ 書く時にその時自分がいる場所がもたらす作用を意識しますか? ボストンとニューヨーク、あるいはイギリスが、あなたの作品にそれぞれ異なった作用をもたらしますか?
「ああ。と言っても、ニューヨーク以外では何も出来ない。それは死だ。イギリスで一体何が出来ると言うんだ。トランプ(悪名高いクラブ)に行くこと? それとも古いものを見物すること?」
・ イギリスではまだアメリカの若者の動きが強い影響力を持っていると思いますか? 「アメリカが占領しかけているよ。でも彼らにはそれを止めるすべはないみたいだ。進出は既に始まっている。車でイギリスのどこかを走っていてもマクドナルドの看板が見えると、僕らがどんなに進出してしまったかということにハッと気づくよ。」
・ 今や何処に行こうと、どの都市も同じように見えますね。
「そう。何処の町に着いても、すごく見慣れた感じがする。そして人々は、何か一つ外国語を習うなんて言うけれど、大抵誰もがすでに一つぐらい外国語を知っていて、それが必ず英語なんだからな。」
・ どういう訳で髪をそんなクルーカットに刈っちゃったのですか?
「僕の美容師がこの3,4年ずっとこの髪型を僕に薦めてくれて、それで遂にOKした。彼の所に行くたびに“その長髪にまだ飽きないのか?”と言う、そこで“わかったよ、その短いのにしよう”と言ってしまった。彼は僕がパニックに陥ったらすぐに止められるように実にゆっくりと切っていき、僕は途中で“ああ、なかなかいいね”とか言ったりしてるうちに、髪はだんだん短くなって、こんな風になった。」
・ 後悔していますか?
「いいや。気に入っているよ。」
・ あなたはニューヨークで育ったのですか?
「ああ。ブルックリンでね。」
・ もしロック・スターでなかったら今何をしたいですか?
「第一に僕はロック・スターじゃない。 多分色んな国にいる友達に会いに行くだろう。近況を尋ねに。 或いは、ただ行方をくらますだけかもしれない。」
・ VU時代には誰の影響を受けましたか?
「誰の影響も受けなかった。 みんなと同じように昔のロックン・ロールのレコードを聴いていただけ。」
・ ボブ・ディランに影響を受けましたか?
「僕をからかうのか?」
・ 私はあなたが最初はディランの影響を受けていたのでは、と感じました。
「そう言われるとがっかりだ。そうじゃない。」
・ 最近のディランのツアーを見ましたか?
「何故? 」
・ 何故って、カルチュアルな出来事だからです。
「太陽が昇るのもカルチュアルな出来事だ。もしディランが今夜演奏するとしても、僕はテレビでも見てるほうがいい。僕はずっと昔のディランしか見ていない。それで充分だ。」
・ アンディ・ウォーホルと出会ったきっかけは?
「ヴィレッジの観光客相手の小屋で演奏していた時、アンディを知っている友達が見に来ていた。そしてアンディが来た日に僕らはそこをクビになった。 そこのマネージャーが『あんた達、もう一曲やって、それでお終いよ』と言ってので、僕らは言われた通りにした。」
・ 何を演奏したのですか?
「ブラック・エンジェルス・デス・ソング。」
・ ウォーホルとの出会いがあなたの生活を変えましたか?
「彼とジョン(・ケイル)とニコとオンディーヌのファクトリーで生まれた関係は特別なものだった。 グループの中ではジョンは真の音楽家で、僕はロックン・ロールに傾倒してた。」
・ その頃のあなたのアイドルは?
「ジェリー・ゴーフィンとキャロル・キング。歌詞を書くのを止めて歌い始めたら。キャロルはキャンプになった。キャンプということを語るなら。キャロル・キングはキャンプだ。バーズもキャンプだし、ディランもそうだ。」
・ あなたはある歌の中で、ある種の愛は他のものよりも勝ると言っていますね。
「いいや、どんな種類の愛も他のものに勝ることはない。」
・ それでは恋に落ちるのは望ましくないことですか?
「愛してそして失うことは、全然愛さなかったよりもいい。」
・ あなたは何を愛していますか?
「『ミーン・ストリート』という映画。キンクスのニューアルバムと『グレート・キンクス・アルバム』。 これに全く参ってしまって、暇さえあればこの二枚のレコードをかけている。 彼らはロック・コンサートではなくてキャバレーで歌うべきだ。『プリザベーション 第一幕』は僕が今まで聴いた中で最もファンタスティックだった。」
・ 他に何を聴いていますか?
「デビット・ボウイ。僕に限って言えば『ハンキー・ドリー』と『ジギー・スターダスト』の二枚。『ジギー』は、彼の完成だ。あれには欠点が一つも無い。彼は『ロックンロールの自殺者』を僕のために書いたと言っているが、あれは全ての人々に宛てられた曲だ。」
・ あなたの最新アルバム『ロックンロール・アニマル』はコンサートで録音されてから僅か6週間で発売されましたが、それはRCAに義務づけられていたのですか?
「いいや。僕たちはテープを聞いて気に入ったからリリースした。本当に気に入ったんだ。」
・ タイトルはあなたが付けたのですか?
「勿論。」
・レコーディングはどのようにやったのですか
「モービル・ユニットを使った。」
・ どうしてカーネギー・ホールやアリス・タリー・ホールではなく、14丁目ののアカデミー・オブ・ミュージック (この3つの中で最も汚い) でコンサートをしたのですか?
「そういうホールから締め出されているからだ。ボウイもイギー・ポップもそうだ。僕たちは好ましくない観客を集めると思われている。」
・ あなたの聴衆はどんな人達ですか?
「ステージに上がると、ライトのせいで客席は全然見えないから分からない。」
・ どこかの都市または国で麻薬やセックスに関する脅威とみなされて公演禁止になったことがありますか?
「いいや。でもマイアミでは“ステージ上での、みだらでわいせつな振る舞い”のかどで逮捕された。」
・ ステージの上にいる時、自分を標的のように感じますか?
「ある種の人々にとって僕は標的だ。街を歩いていても分かる。時々ひどい敵意を感じる。 それは人々がみんな僕と同じくらいクールなことを誇示しようとする時だ。」
・ そういう人々をどうやってかわすのですか?
「“やあ、元気かい”と声を掛けるんだ。するとみんなびっくりして、どこかへ行ってしまうよ。」
・ あなたの髪は黒く染めているのですか?
「ああ。」
・ 黒が好きなんですか?
「ああ。金色にも興味があるけど、しかし黒と白にはものすごい可能性を感じる。真っ黒と真っ白を間に何も入れないで合わせることが出来る。或いは僕らが一度ジャケットに使ったように、黒いバックに黒い写真を載せることも出来る。黒の上に黒、そこに誰も写真があることさえ気づかない。みんなカラーで映画を作るが、本当の意味でのカラー・ムービーじゃない。それはカラーの付いた白黒映画だ。映画に赤い花が出てきて何が悪いのか? 緑の草は外に出ればいつでも見られる。アンディは白黒を把握した唯一の映像作家だ。彼のいくつかの映画の中では本当のカラーが現れていた。 アンディ以外にカラー・ムービーを作った人はいない。」
・ その黒の皮のズボンはどこで買ったのですか?
「忘れた。色々な所を見て歩いたよ。みんなこういう感じで凄く高かった。ニューヨークでは凄く上等なものを作るか、そうでなければ全く作らないかのどちらかだ。」
・ あなたの使っているマニキュアは?
「ビバの製品で。ビバ・ブラック。 イギリスでは有名なんだ。」
・ 一度落とす前に何回ぐらい塗り直すのですか?
「3回か5回ぐらい。」
・ あなたのご両親はあなたがマニキュアをしているのをご存知ですか?
「ああ。隠しているわけじゃない。」
・ファッションはどのような方向に向かっていると思いますか?
「僕の向かっている方向とは違う方向へ。現在はエキサイティングなものは何も生まれていない。これからはクリーンなものが流行ると思う。クリーンで無に近いものが。」
・ あなたは自分が成功者だと思いますか?
「成功って何だ? 金儲けか? やりたいことが出来ること? それともいつでも引退できることか?」
・ では今後の予定は?
「次のアルバムに取り掛かる。出来るだけ良いものを作りたい。それから多分、ニコのためにいくつか曲を書くと思う。」
・ 自分の曲の中で一番好きなのは?
「ニコの歌う『アイル・ビー・ユア・ミラー』。」